林紘一郎慶応大学教授意見書の問題点

林教授意見書(以下林意見書と呼ぶ)は、神戸地裁洲本支部 松尾昭彦裁判官による 広告放送中止事件の判決に多大な影響を与えたようである。なぜならば、この判決は、林意見書の見解の「コピー判決」ではと思われるほど、忠実にこの意見書に沿っているからである。
そこで以下、むらトピア未来研究室ではこの意見書の論理的誤りを検証する。


林意見書の論理は、次のようである。

1(前提1と呼ぶ)。多チャンネル時代は、資源の希少性の減少をもたらすから 経済的自由(営業の自由等)の保障が、かえって言論の自由を守ることになる。

2(前提2と呼ぶ)。行政サービスに従事する「町長A」と、ケーブルテレビの事業を行う「町長C」は、機能的に区別すべきである。なぜなら、行政の長が広告放送の適否を判断することは、いたずらに行政の介人を認めることになって、それこそ言論の自由にとって好ましいことではないからである。

3(結論と呼ぶ)。よって、「町長C」は、いずれか一方の立場に立っているとの印象を避けるため、広告放送を中止した行為は妥当であったと言うべきである。

この林結論の論理的誤り

「いずれか一方の立場に立っているとの印象を避ける」とは、行政の中立性を守る義務のある「町長A」の判断である。よって、「町長C」の判断に「町長A」の判断を用いたのは、明らかに行政の介入を避けるという前提2に反する。

前提1・2から導かれる正しい結論


前提1の経済的自由の判断が出来るのは、前提2におけるケーブルテレビの長としての「町長C」のみである。
では、町営ケーブルテレビに於ける経済的自由、営業の自由とは何か。
「心ゆたかなふるさと五色のまちづくり」という目的で設置された「町民のCATV」であるから、この目的のために、町民の経済的自由(例えばビジネス広告等)や町民の営業の自由(例えば各種催し物等の案内)を、有線テレビジョン放送法・放送法の範囲内で保証するのが「町長C」の義務である。

よって、今回の広告放送中止は、こうした町民の自由な営業活動の妨害となり、違法である。

以上。


林教授への公開質問状


原告によると、林教授はこの意見書の中で以下のような事実誤認をおかしている。そこでむらトピア未来研究室では、林教授の名誉のために次のような公開質問状を用意した。
盲目的に被告を擁護するために、経済的理由による副業のために、真理を探究するという研究者としての良心を売り飛ばしたと批判されないためにも、ぜひ以下の5点についてお答えいただきたい。

1.「黒い土と汚染問題を考える」というテーマの設定自体が否定的な表現であることとしているが、そうでないことは、五色町に来て、当時のメディア報道を調べればすぐにわかる。例えば、「五色町内の埋め立て地に搬入中の建設残土から基準値を超えるヒ素が検出された「黒い土問題」で、 ・・・ 汚染された「黒い土」の搬入を阻止する町独自の条例を制定することで(読売新聞、平成9年5月30日)」といったような内容の報道が、朝日、読売、産経、神戸新聞で頻繁になされていたという事実を知ればこのことは明白である。なぜ否定的な表現なのか。

2.「連絡先とされている原告が、かねてから残土搬入反対派の人物であった」と断言しているが、こういう事実は全くなく、町長の個人的偏見であったことは、原告陳述書(1998年6月15日)、原告・被告双方の証人尋問調書(1998年7月3日)等のデータ(いずれも林意見書提出以前のもので利用可能)をもう少し客観的に調査・吟味すればすぐに判明するはずである。原告を反対派人物と断言した根拠は何か。

3.「町はこの問題については、広告主と同様消極的である」ことを伝える結果となりかねなかったので、
いずれか一方の立場に立っているとの印象を避けるため、広告放送を中止した行為は妥当であったと行政の町としての「町長A」の中立性を擁護しているが、原告陳述書等で五色町に於ける残土条例制定の状況、およびその後の町民の条例改正請願書の取り扱われ方等を詳細に吟味すれば、事実は逆に町長自身が残土搬入に積極的であったことがすぐに判明するはずである。町長が賛成派でも反対派でもなく中立的であるとする根拠は何か。

4.「そこで本事案のように住民の関心が高く、かつ賛否が分かれているものについては、関係者の論議を深ゆることが不可欠と考えた町長」と分析しているが、
(1)1997年(平成9年)5月に五色町が実施したアンケートで、88.3%の町民が、汚染された建設残土(黒い土)の五色町搬入に反対を表明しており、常識的にみて賛否が分かれているとはいえないが、なぜそういえるのか。
 (2)五色町民は、地下水を毎日の飲料水としており、汚染のないきれいな地下水が「命の水」なのである。よって汚染された黒い土から影響を受ける関係者とは、町民自身なのである。その町民がこの問題を論議しようとする案内広告を中止するのを妥当として、町民を排除した関係者での論議の必要性を主張する町長を擁護する根拠は何か。その場合の関係者とは誰を指すのか。

5.「訴状請求原因第9項のホームステイ拒否と本件とがいかなる関係にあるのか、私は理解に苦しむものである」と意見表明しているが、確かに1998年6月12日に提出した被告陳述書でも口裏を合わせるように「山口氏はホームステイ先をお断りしたことを本件で問題とされていますが、このことと本件訴訟とは全く関係がありません。」と被告は同様に陳述している。しかしながら、同年7月3日に行われた被告証人尋問で「ホームステイを断ったのも、広告放送を中止したことに端を発しているのはまちがいありません。」とこの関係をあっさり法廷で認めている。こんな簡単なウソは原告陳述書を読めば看過できたはずである。本件と関係ないとした根拠は何か。