このページは、さる平成10年12月25日に言い渡された、五色町CATV広告放送中止事件の判決を、原告、専門家、五色町民等に読んでいただき、そこで指摘された問題点を整理し、むらトピア未来研究室がまとめたものです。この表現の自由侵害という重大な事件を理解するための参考にしてください。
(1)本件広告料5000円の請求権を原告は放棄していない(判決:放棄している)。このことは原告証言からも明白である。
(2)五色町情報センター広告放送取扱要綱と同様の規定は、地方公共団体における広報紙への広告掲載についての基準にも認められるとしている(判決)が、CATVの運営は有線テレビジョン放送法による免許事業であり、町の広告紙は免許事業ではない。従って広告放送基準と町の広報紙基準はまったくの別基準である。
(3)原告は黒い土問題に関して、町長をリコールすべしと発言したことはない(判決:原告もその中の一人)。平成9年7月27日夜の約20名の会合で、参加者から「五色町独自のアンケート結果で88.3%の町民が汚染された「黒い土」の搬入に反対しているが、もし残土推進派の町長がこの町民の声を無視し続け、条例が制定されなければどうすれば」との質問があったので、一般論としてリコールという制度があるという話をさせていただいただけである(原告証言)。後にも先にも、黒い土問題での住民との集まりでこんな話が出たのはこの時1回限りである。当時の原告は、未来の子供たちのために、どうすれば汚染された「黒い土」の搬入を規制できる条例を町に制定してもらうかで頭がいっぱいであった。
(4)「『黒い土』汚染問題を考える」という原告の告知広告文言は、建設残土搬入について否定的な意味合いを有していない(判決:有している)。以下は広告放送中止事件の平成9年8月26日前後に於ける、マスコミに氾濫する「黒い土」表現である。
これらから読みとれることは(そして原告はまさにこうした新聞記事でこの問題の所在を知ったのであるが)、まさか国の基準値を越えるような汚染があるはずのない「黒い土(建設残土)が汚染されており(県の調査で1.7倍のヒ素)、五色町で社会問題となっていた」ということである。よって「黒い土」汚染問題とはまさに当時の五色町に於ける周知の社会問題を端的に表現した事実にすぎないのであり、意見表明でも何でもない。この事実問題をみんなで、専門家も、町長も、町議も町民も参加して考えようというのが告知広告の主旨であった。
(5)五色情報センターの所長に告知広告を申込だ際、担当者(所長)は、十分に本件広告放送の内容を検討して契約したのである(判決:検討しなかった)。原告は、五色町で社会問題となっている「黒い土」汚染問題を考えるフォーラム開催案内文を示し、フォーラムの中立的、学習会的性格を十分に説明している。だからこそ無料の文字放送の11chでの放送の可能性を示唆されたのであり、またその後、所長自らがこの広告放送契約に応じたのである(原告陳述書)。
(6)原告は、国の基準値以下の安全な建設残土搬入に反対したことは1度もない(判決:反対論者であると見られていた)。原告は、基準値(国の土壌環境基準、これはまた国の水質基準でもある)を越える残土搬入には当時も今も88.3%の町民同様に反対であるが、残土搬入推進派でもこれに賛成するものはいないと思われる。
顕著な例外はただ一人、被告町長自身である。なぜならば、基準値を越えていても遮水工さえしておれば、産業廃棄物の基準値まで汚染された「黒い土」でも合法的に搬入できるという条例を上程し、ごり押しに可決させたからである。さらにその後、国の基準値に基づく規制に条例を改正してもらいたいという町民(原告代表)の2回の請願書をかたくなに拒否し続けたからである。しかるに、平成10年4月にお隣の一宮町で、また平成10年12月にお隣の西淡町で、残土条例が制定された。これら2つの条例は、国の基準値を採用し、それによる「黒い土」搬入を規制するものである。なぜ五色町はこの基準を採用しなかったのか。なぜ被告は、町民の民意に反する残土搬入推進派なのか。それらの理由は、原告陳述書に述べられているが、判決は、地元町民の間で周知の、元業者仲間の利益代弁者としての被告という事実を見逃している。
(1)判決は、告知広告は私人間によるる純私法上の契約としている。しかるに、町営のCATVの運営は、有線テレビジョン放送法に基づく免許事業であり、さらに有線テレビジョン放送法の放送内容は「放送法の規定に準ずる」とあるので、放送法という公法によるものであるのは明白であり、その放送内容は「私人間によるる純私法上の契約」とはなりえない。民間放送局に於ける広告契約(広告料等の契約ではなく、広告(放送)内容そのもの)も然りである。(アメリカでは、私有地のショッピングセンター等での署名活動等も公的活動とされていて排除されない)
(2)
(a) 判決は、賛否両論ある問題の反対論者の集まりの告知だから、行政の中立性のためには、告知広告は拒否できるとしている。しかしながら、フォーラムの告知は反対論者の集まりのための告知広告では決してなかったことは、上の事実誤認(4)の論拠から明白である。にもかかわらず判決は、賛否両論ある問題で、行政の中立性を貫くために被告は「心身共に疲れている」(被告陳述書)が、毅然たる態度でドン・キホーテ的な闘いをしているのだという被告サイドの見事な演出を鵜呑みにし、行政の中立性のためには違法性はなかったとしてしまったのであるが、残土搬入推進派のドン・キホーテ的旗振り役をしていたのが実は町長その人であり、従って、推進派の被告から見れば中立的な学習会でもストレートに反対派の集会と映ったまでである。このことは、例えば広告放送中止直後の神戸新聞、平成9年8月28日付けの記事で、「『残土が悪い』とする、一方だけの立場の催し」と決めつけていることからもわかるが、8月31日のフォーラムが中立的学習会であったことは、当時の新聞報道からも明白である。
(b) メディアの中立性と行政の中立性を混同した全くお粗末な基本的判断ミスである。五色町CATVは、免許事業であり、放送法・有線テレビジョン放送法による運営が義務づけられている。放送法第2条の2によると放送局の置局に関して「放送をすることができる機会をできるだけ多くの者に対し確保することにより、放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されるようにする」ことがその指針として挙げられている。そして第3条の2の四では「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」とある。すなわち、賛否両論ある問題では、町営CATVは、例え賛否いずれかの集まりであったとしても(事実はそうではなかったのであるが)、それを放送する機会を与えるのが中立的運営であるべきであり、この意味で今回の広告放送中止は以下の2つの差別的運営の過ちを犯しており、明らかに放送法違反であり、その背後にある憲法で保証された表現の自由の侵害である。
(イ)無料の文字放送11chでの告知放送拒否
(ロ)有料の広告放送1chでの告知広告放送拒否
(イ)の違法行為は、原告陳述書で述べているにもかかわらず、判決では全く無視されており、(ロ)の違法行為は、五〇〇〇円の広告料は、社会常識的に一方側の告知広告の機会を奪う額ではないので、より悪質である。これらの徹底的差別運営の結果、町民へのフォーラムの告知の機会が町営(町民)のCATVから全く奪われてしまったのである。
(c) 今回の告知広告中止プロセスは、公序良俗に反する。すなわち、もし表現に不適切な文言があれば、まず広告主に変更依頼をし、それでも合意が得られなければ中止(契約不履行)という社会常識的プロセス(事前通告・協議)が取られておらず、強制的な一方的取り消しである。民法でもこんな暴力的一方的債務不履行は認められていない。
(3)原告家族は、もし原告が告知広告さえしなければ、町の公式イベントに招待されていたのであるから、「信条等によって差別されない」という憲法第14条の基本的人権を侵害されたことは明白である。被告証人尋問によると招待拒否の理由は以下のようである。
「ホームステイを断ったのは、主役は子供たちなので、子供は感性で物事を捕らえるので少しの心配もさせてはならないということで、原告と私が目をそらしたりとか、歓迎会とかレセプションとかお別れ会とか色々しますで、こういうことは避けた方がいいんじゃないかと私はそう判断をしました。(被告証人尋問)」
原告(アメリカ在住10数年の国際派大学教授)の行為がロシアの子供たちとの交流会で信頼できないから参加させないというこんな独断的で横暴な判断が、基本的人権の侵害でなくて、いったい何なのか。判決がいうような原告と町長との間には「緊張関係」は何らなかったのであり、原告家族がロシアの子供たちをホームステイさせれば「円満に実施できない」(例えば、ロシアの子供たちを虐待するとか)といった危険な状況は何もなかったのである。むしろ、原告陳述書で述べたように、子供たちはこのホームステイを心待ちしていたのである。こんな明白な人権侵害が「違法なものとはいえない」のであれば、どの法律に照らして違法でないのか、明らかにすべきである。被告は陳述書で最初は「この問題と広告放送中止は全く関係ない」と主張したが、被告証人尋問で「広告放送を中止したことに端を発している」と認めている。この差別によって原告家族が被った精神的苦痛は甚大である。こんな原告家族の差別的扱いに伴う精神的苦痛を認めない判決とは、いずれの国のいかなる法律に基づく判決なのか。
もしこんな神戸地裁洲本支部 松尾裁判官の判断ミスが許されるならば
A)首長(行政)の独断によって公営CATV等のメディアが私物化されることになり、
B)首長(行政)の独断によって基本的人権が容易に侵害され、行政の私物化が正当化されることになる。
この結果、地方の活性化や国の発展が阻害されることになり、未来の子供たちにとってゆゆしいプレゼントを与えてしまうことになる。