平成10年4月10日(金)午前10時30分から、神戸地方裁判所洲本支部において、第3回目の公判が行われました。以下は被告が陳述された準備書面(2)です。原告代理人から当日いただいたコピーをOCR作成したものですので、乱丁があるかもわかりませんので、そのつもりでご参照ください。


平成九年(ワ)第七三号 損害賠償等請求事件


       原告   山 薫

       被告   五色町


平成一○年四月一○日


被告訴訟代理人  弁護士 道上 明

         弁護士 伊藤 信二


神戸地方裁判所 洲本支部 御 中 

準備書面(二)

一 本件放送施設の利用関係について


1 原告は、本件のケーブルテレピ放送施設(以下「本件施設」という。)が地方自治法二四四条の「公の施設」にあたると主張するが、この点は本件に直接かかわりがないから認否を行わない。本件の間題点は、本件施設が「公の施設」にあたるかどうかではなく、その利用をめぐる法律関係が公法関係であるか私法関係であるかにあるからである。なお、「公の施設」という用語は、昭和三八年の地方自治法改正後に使用されるようになったものであるが、当時はケーブルテレビシステムが普及していなかつたことからして、これは「公の施設」として予定されていたものではないことを指描しておく。


2 本件施設のように行攻機関の所有管理する物の利用関係の法的性質について、かっては原告の主張するような見解の対立もみられた。しかし、現在においては、特別の定めがない限り、私法契約とみるべきであるとする見解が支配的となっている。これは、原告が引用する文献にも述べられているとおりである。

したがって、本件施設の利用関係について、これを公法関係とみる特別の規定が設けられていない以上、この利月関係は私法関係であって、本件の広告放送取扱要網と契約法理に従って処理されることになる。この点は、原告としても争わないところであろうと思料される。

なお、被告は、本件広告放送について、原告と被告の間に右の性質を有する契約が成立していたことを争うものではないことを念のため付言する。


3 そうすると、行攻機関の所有管理する物の利用関係について残る問題は、私法関係に憲法が適用されるかどうかということになる。しかし、この問題については、既に被告の準備書面(一)で引用した最高栽判例元年六月二○日が判示するところであって、私法上の契約は特段の事情のない限り、憲法の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎないとされている。

したがって、本件では、これも既に述べたとおり、被告に民法に規定された債務不履行ないし不法行為の成立が認められるかどうかだけが問題となるものであり、被告の行為が憲法二一条に反するかどうかは問題となり得ない。


二 本件広告放送中止の理由について


1 被告がケーブルテレビ放送を始めたのは平成六年四月からであるが、当時は広告放送に関する要練は定められていなかった。しかし、その後、広告放送について準則を設ける必要性が認織されるに至ったことから、五色町情報センター施設放送番組審議会での慎重な審護を経て、本件の広告放送取扱要綱が綱定され、平成七年五月一日から施行されることとなった。


2 右要網二条各号には、放送をしない十五の場合が規定されているが、このうち六号は「社会問題についての意見広告」について、十二号は「あたかも町が推奨していると思われる表現のもの」について、十五号は「その他放送することが不適当と町長が認めるもの」について放送をしないと規定している。


3 被告が本件の広告放送を中止したのは、右の十五号にあたると判断したことは既に述べたが、この判析をするにあたっては、六号及び十二号の規定の趣旨も考慮に入れたうえで総合的に十五号にあたると判断したものである。

すなわち、五色町への建設残土搬入の是非をめぐっては、平成九年当時から、町内の地域のレベルでも、町民のレベルでも意見が分かれて社会間題化していた。被告に対して建設残土の搬入を積極的に要望していた地区としてば、奥の内、米山、吉田の三地区があり、また、国や兵庫県からも、資源の有効利用を図るため建設残土の利用を進めるぺきであるとの指示がなされていた。しかし、他方では建設残土の安全性等に対する危倶から、鳥飼、大浜地区などがこれに反対していた。原告もこの問題に反対の意見を表明していた一人であり、同人のそれまでの活動から、同人がそのような意見を持っていたことを知る人も少なからずいた。本件の広告放送の申込みはこのような状態下でなされたものである。

本件の広告放送の内容自体ば、この問題について賛否の意見を表したものてはないが、フォーラムのテーマとして「黒い士と汚染問題を考える。」と右の間題に否定的な表現が使用されていたこと、また、フオーラムについての連絡先(主催者)が右の間題について意見を表明していた原告であったことから、この広告をそのまま放送すると、町がこの問題に消極的な態度をとっているかのような印象を町民に与え、特に賛成派の立場の人たちから町政に不信感を抱かれる艮れがあった。そこで、町長としては、五色町がいずれか一方の立場に立っているという印象を持たれることを避け、行政の中立性並ぴに町政の安定を図るために、本件広告放送の中止を決定した。町長としては、建設残土搬入の問題は、関係者の論議を経て解決すぺき問題であると考えていたものである。

そして、本件広告放迭の内容は、広告放送取扱要網の二条六号及ぴ十二号に直接該当するものではなかったが、建設残土の搬入をめぐる問題が五色町内で「社会問題」化していたことは事実であり、また、前記の理由から、反対派の立場を「町が推奨していると思われる」可能性を否定しきれなかったことから、町長は六号及び十二号の趣旨もふまえながら、総合的に十五号に該当すると判断したものである。


4 原告は、原告が主催して平成九年八月三一日に開催されたフオーラムにおいて、被告が五色町民センターの使用を中止しなかったことを間題視するようである。

しかし、被告が原告のセンター使用を中止しなかったのは、五色町民センター使用条例の三条三項各号に規定されている使用不許可事由や、十一条各号に規定されている使用取消事由がなかったからにすぎない。ケーブルテレビを使った広告放送と、五色町民センターの使用とでは、そもそも関連規定の内容が異なっているのであって、右の二つに対する被告の対応の仕方を対比することには全く意味がない。


5 原告は、これと同様に、町長が前記のフオーラムに出席したことも問題とするようてある。しかし、町長がフオーラムに出席すれぱ、広告放送と異なり、町長自身で五色町の考え方が中立的なものであることを説明することができ、それによって行攻の中立性に疑いが持たれることを避けることができるから、町長の態度は一貫性を欠くものではない。


6 なお、原告は、ホームステイ先を断られたことをも問題とするようであるが、これは本件と全く関連性がないものである。