以下は平成11年4月14日に被控訴人が大阪高等裁判所に提出した、控訴理由書に対する反論の準備書面です。控訴人 代理人からいただいたコピーをOCR作成したものですので、 乱丁があるかもわかりませんので、そのつもりでご参照ください。




平成十一年(ネ)第三六二号 損害賠償等請求控訴事件

           控訴人 山 口 薫
           被控訴人 五色町

   平成十一年四月一四日
        被控訴人訟代理人
         弁護士 道上 明
         弁護士 伊藤 信二


大阪高等裁判所 第一民事部一係 御中

準備書面(一)



一 はじめに

 被控訴人は、控訴人の平成十一年二月二五日付け控訴理由書につき次のとおリ反論する。なお、本準備書面(一)では、事実関係の主張についての反論を中心に行い、憲法、有線テレビジョン放送法、放送法、地方自治法、本件広告放送取扱要綱の解釈等に関する法的な主張についての反論は、更に検討のうえ行うこととする。

二 「本件広告放送画面について」の反論

1 控訴人は、『黒い土」という言葉は何ら否定的な表現ではなく、「汚染問題を考える」という表現にも搬入反対の否定的ニュアンスはないと主張するが、これは五色町内の住民や関係者だけでなく、一般的の人が受げる印象とも大きく乖離している。
 「黒い土」という表現には二つの用いられ方があり、建設残土すぺてを指すこともあれぱ(たとえば原告本人三三)、建設残土のうち汚染された土もしくはその可能性のある土を指すこともある(たとえば乙五、乙六)。このように多義的な言葉仁ついては、その言葉の意味だけを捉えるのではなく、その後に続く言葉も含めた全体の文脈の中で意味を理解しなければならない。そうすると、本件の「『黒い土』と汚染問題を考える」という表現は、「黒い土」という言葉に続いて『汚染問題」という言葉が使用されていることからして、汚染された建設残土もしくは汚染の疑いがある建設残土につき、搬入反対の立場から議論するという意味が自然と読み取られる。加えて「黒い土」という言葉が括弧書きにされ、特別な意味であることが強調されていることからしても、本件広告内容から理解される一般的な意味は右のようなものになる。本件広告内容の意味付けに関する控訴人の議論は「黒い土」、「汚染問題を考える」という言葉の意味をそれぞ札別個に理解しようというものであり、その議論の仕方自体が問題であるというべきである。

2 控訴人は、建設残土搬入問題についての反対者ではないと主張し、
この問題についての関与の仕方も後追い的で押しつけられたものであったことを強調する。しかしながら、同人が右問題についての反対者の一人であったことに間違いはないと思われるし、問題なのは同人がどのように建設残土搬入間題に関与し始めたかでは次く、同人の本件広告放送の申込みまでの発言や行動が右の問題に中立的なものであったかどうかである。
 この点、同人は、右申込みに先だつ平成九年七月二七目、鳥飼地区における建設残土搬入反対派の集まりに自ら進んで参加して、その席上で町の方針を批判し、町長のリコールにもふれていた(乙二三、二四)。また、同人は、同年八月一四日、町長、町会議長、町会議員一五名あてに「いわゆる『黒い士』問題に関するアンケートのお願い」と題する文書を突然送付してきた(乙一三の二)。この文書は建設残土搬入問題について町長や町議会関係者に意見を問うものであったが、その内容の一部は明らかに右の問題に反対の立場であることが伺われるものであった。同人のこのような言動からすれば、同人が右の問題に反対の立場を表明していたことは明らかである。

三 「五色町における建設残土搬入問題をめぐる状況について」の反論

1 控訴人は、米山地区土地改良組合設立は平成六年九月と古いのに対し、建設残土搬入反対の署名活動が行われたのは平成九年三月になってのことであるから、本件広告申込み当時には賛成派と反対派の対立は激化するようなものではなかったと主張するようであるが、このような認識は正しくない。なぜなら、当然のことではあるが、土地改良組合は設立しただけでは意味がなく、その後のほ場整備事業を実現しなくては目的を達成することができないからである。米山地区でも右組合設立後から勉強会、設計計画、土質調査、事業認可申請等の準備を順次進め、本件広告放送申込み前の平成九年七月には島外残土埋立申請手続を行っていた。しかし、この時点では、ほ場整備事業はまだ準備段階にあり、実際に残土の搬入がなされるまでは、地区の住民としては念願のほ場整備事業が立ち消えにならないかと心配レなければならない状態にあった(乙二〇)。なお、右組合は、同地区への建設残土搬入が可能であることを前提として、ほ場整備事業を進めることができる目途が立ったときに設立されたものであり、建設残土を利用してほ場整備を行うという案は、右組合設立以前からの米山地区住民の念願だったものである。
 このような折リに建設残土搬入反対派の動きが高まっていったことによって、両派の対立が強くなっていたことは容易に推測することができる。実際この前後の反対派の運動の高まりは、建設残土搬入阻止の要請書や三六七七名にのぼる署名活動にあらわれているとおリであリ(乙五、乙六)、これを危惧した右組合員の切実な思いは、要望書や陳述書のとおりである(乙二、乙一九)。原判決の認定した事実は決してフィクションなどではない。
 そして、このような状態は米山地区だけでなく、ほ場整備事業を進めていた他の各地区においても見られたものである。

2 控訴人は、当時の状況は賛成派、反対派に分けられるものではなかったとも主張しているが、このような認識も正しくない。同人は、反対派といわれる住民は前提としての情報を取得しようとしており、本件広告放送中止の時点でも建設残土の安全性についての情報を得たいとの気運が高まっていたにとどまリ、反対運動はなかったかのように主張するが、実際に両派の対立があったことは右のとおりである。
 平成九年三月に一リットルあたリO・〇一七ミリグラムの砒素を含有する建設残土が五色町内へ搬入されるという事が起こって以来、建設残土には常に汚染の疑いが持たれることになったため、反対派は実際に汚染されていることが判明した残土はもちろん、その可能性があるにとどまる残土も含めて、建設残土搬入に全体的に反対していたものである。先にふれた反対派の乙第五号証、特に乙第六号証では、右のような趣旨で「黒い土」搬入阻止の要請がなされていたことが明らかである。

3 控訴人は、住民の一部に町や町長に対する損害賠償請求を示唆した者がいた点について、その現実性も疑わしいと主張する。しかし、当時の法令上、町内の地権者につき建設残土の搬入を制限できる規定は何もなかったのであるから、町が法律上の根拠なく建設残土搬入を規制していれば、地権者から損害賠償請求の法的手段が採られていた可能性はかなリ高かったといえる。当時の五色町内の情勢は、これほど賛成派と反対派が厳しく対する状窟にあったとみるぺきである。
 また、控訴人は、リコールの問題にもふれているが、被控訴人としてもリコールが住民の正当な権利であることを否定するものではない。ただ、五色町が約三三〇〇世帯からなる規模の小さな自治体であるにもかかわらず、リコールの問題が口にされるだけでなく、賛成派と反対派の住民が町長に数度にわたる直接の要請を行ったり、右の損害賠償請求の問題が持ち上がったリしていたこと等を併わせ考えると、町長が行政の中立性に配慮し、また、町政が混乱する事態を避けようとしたことは合理的な判断であったというぺきである。


四 「ホームステイ受入先拒否について」に対する反論

 控訴人は、町長が控訴人にホームステイの受入れ先となることを断った点について、被控訴人の主張を容れた原判決を論難するが、原判決はホームステイ先に来る子ども達のことを配慮した町の措置を妥当であると判断したものであって、この判示内容は常識的であると評価できる。控訴人は、町長がホームステイの受入れ先となることを断った時点では、控訴人に広告放送の中止が通知されていなかったことを理由の一つとして原判決に問題があると主張するが、町長としてはホームステイ受入後のことを心配したものであり、原判決もこの点を是認できるとしたものである。
 なお、控訴人は、町長がホームステイ先となることを断ったこと自体が問題であるというのか、訴状で主張するように町長が控訴人を村八分扱いにしたことも問題であると主張するのか必ずしも明らかでないが、前者であれば町長の行為が「権利ヲ侵害シダ」(民法七〇九条)とまでは到底いえないし、後者であればそのような事実は全くない。